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Jazzの魅力:エバンスが奏でる哀しみのピアノ最高峰エバンス晩年のアルバム「B Minor Walts」

この記事は「ご趣味は?」と聞かれた時に「いや、ちょっとジャズをね・・・」と答えられるようになるためにシリーズでお届けしています。

本記事はその第二弾です。

第一弾では、とっつきにくいジャズを楽しんでいただこうと、親しみやすくメロディの美しい2曲を紹介しました。

まだ、「Jazz”X”がおすすめするジャズの魅力(1)」をお読みでない方は、こちらをお読み下さい。

親しみやすくメロディの美しい2曲+1曲を紹介していますので、お聴きになると”なかなかジャズも良いね~♫”という感想を持つことが出来るかも!

バンドをサポートする下支えであったピアノを一躍華やかなスポットライトを浴びる位置にまで引き上げた「バドパウエル」を紹介しました。

怒涛の存在感を示した名曲「クレオパトラの夢」を聴いて頂きました。

2曲目としてパウエル派の「ウイントンケリー」の゛コロコロ゛感満載のケリー節が炸裂した「朝日のごとくさわやかに」を聴いて頂きました。

さて、今回はパウエル派とある意味で双璧をなす「ビルエバンス」の登場です。

 

Bill Evans:ビルエバンス

bill-evans-photography画像引用:ヴィヴィアンの音楽ヲタブロ

ビルエバンスは私の最も好きなプレイヤーの一人です。

今回、みなさんに最高の曲を紹介しますが、それは後ほどのお楽しみにします。

今しばらく記事にお付き合い下さい。

さて、ジャズを聴いてみようと思ったけれど、すぐに「テーマとアドリブ」にぶつかって、なんとなく「ああ、こういうものなんだなぁ」と感じつつ、それが実際にどういうことなのかをよく分からないままに、その先へ進むことができなかった、という人が数多くいます。

多くのジャズ演奏はテーマとアドリブで構成されています。

テーマとアドリブ

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わかりやすく言うとテーマはあらかじめ作曲されたメロディの部分で、アドリブは、そのテーマを基にして、ジャズプレイヤーが即興的に演奏している部分です。

役者のセリフに例えると、テーマは決められた台本で、アドリブはその場の雰囲気に合わせた役者さんの即興セリフなようなものです。

ドクターXに出演した西田敏行さんなどはアドリブが多く、その絶妙なアドリブには他の役者さんも大絶賛したそうです。

ジャズではアドリブにこそが、そのプレイヤーの主張したい感性そのものが反映されており、それを楽しめるようになることこそがジャズの醍醐味です。

一般的な演奏の流れは、まずテーマからはじまり、アドリブに突入し、最後は再びテーマのメロディに戻り演奏を終了します。

テーマのメロディ部は、もちろんジャズプレイヤー自身が作曲したオリジナル曲もあります。

例えば、エロールガーナーが作曲した「ミスティ」などが有名です。

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【一口メモ】:ミスティ

この曲が出来たエピソードがとてもおもしろいので紹介します。
作曲したエロル・ガーナーは、ピアノを独学で覚えたので、譜面の読み書きが出来ないのでした。

あるとき、霧の中を飛ぶ飛行機の窓から外を眺めていた時に、「ミスティ」のメロディを思いついたが、譜面が書けない…、どうしよう、このままでは忘れてしまう!

ということで、必死に頭の中で忘れないように、メロディを繰り返し口ずさんだそうです。

そして、飛行機から降り、タクシーでホテルに直行。ホテルのピアノで演奏し借りたテープレコーダーに録音して無事、名曲「ミスティ」は世に残ったと言うことです。

 

一方、映画などのポピュラー音楽の作曲家が作曲した曲も数多くあります。

たくさんのジャズプレイヤーが演奏しているスタンダードナンバーとして有名な「枯葉」は有名なシャンソンです。

ジャズには「ジャズに名演あっても名曲なし」という名言があります。

そう、ジャズが個性の音楽と言われるのは、その場でのアドリブに、演奏者の感性や人間性が現れるからなのです

従って、テーマというのは極端なことを言えば、どのような曲でもよく、重要な点はその演奏に、その演奏者の個性・感性が十分に発揮されているか、つまりその演奏が聴く人を「うーん、さすがや」と唸らせることができるかにかかっています。

このように、ジャズにおいては同じ曲名でも、演奏者によってテーマの弾き方、アドリブそのものなどが異なり、そうした違いなどを楽しむのもジャズの大きな楽しみの一つです。

たとえば、ウイントンケリーの「枯葉」はケリー節の粒立ちの良いリズミカルな演奏で、原曲の輪郭を比較的残しています。

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一方、今回紹介するビルエバンスの「ポートレ一インジャズ」で演奏している「枯葉」はエバンス独特なイントロをつけており、趣がかなり異なります。

こうした「枯葉」一つを取ってみても、ジャズプレイヤーによってテーマへのアプローチは千差万別です。

こうした聴き比べもこれからのシリーズで取り上げていくつもりです。

昔、私も「枯葉」の入っている数多くのアルバムを聴き比べ、テーマの違いを楽しんだ覚えがあります。

こうした点もジャズの楽しみの一つです。

ところで、ジャズにはよく「コード進行」という言葉が出てきます。コード進行ってなんでしょうか?

 

コード進行とは

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簡単にいうと、コード(和音)の流れのことを指します。

曲はこのコードとメロディによって出来ています。

車に例えましょう。エンジン部分がコードです。メロディは車の外観です。

つまり同じエンジンを搭載していても、その外観が異なれば、その車の印象はだいぶ違います。

ジャズで用いられるコード進行として、2パターンに触れておくと良いと思います。

それを押さえるには、次の2曲を聴くことを勧めます。

「オール・ザ・シングス・ユー・アー」と「アイ・ガット・リズム」です。

【一口メモ】:「オール・ザ・シングス・ユー・アー」

作曲は、ブロードウェイ・ミュージカルのスタートから活躍し、数々のミュージカルの音楽を担当したことで、多くのスタンダード・ナンバーを残した作曲家のジェローム・カーンです。
作詞は、ジェローム・カーン等と組んでブロードウェイ・ミュージカルのスタートから活躍した作詞家のオスカー・ハマースタインⅡで、1939年にミュージカル「ヴェリー・フォーム・フォー・メイ」のために作られたラヴソングの作品です。

Ⅵm7-Ⅱm7-Ⅴ7-ⅠやⅡm7ーⅤ7-Ⅰ、Ⅱm7♭5-Ⅴ7-Ⅰといった、ジャズではお馴染みのコード進行の組み合わせを中心に出来ている作品の為、聴いていて心地よく、慣れると、アドリブの組み立てがし易い作品として多くのミュージシャンにまで好まれ、幅広く取り上げられている楽曲です。

さて、ここでⅥm7-Ⅱm7-Ⅴ7-ⅠやⅡm7ーⅤ7-Ⅰ、Ⅱm7♭5-Ⅴ7-Ⅰといったコードが表示されていますが、コード(和音)についてわかりやすく解説した

ヤマハの第1回 基本的なコードネームを理解しようと言うサイトがありますので、コードとはなんぞ?のかたはアクセスしてみて下さい。

【一口メモ】:「アイ・ガット・リズム」

1930年に発表された、ジョージ・ガーシュウィン作曲、アイラ・ガーシュウィン作詞による歌です。
現在でもジャズのスタンダード・ナンバーとして知られ、独特なコードの進行は「リズムチェンジ」として知られており、チャーリー・パーカーとディジー・ガレスピーが作曲したビバップ、「アンスロポロジー」など、多くの著名なジャズ曲の基礎となっています。

ブルースのコード進行でアドリブする事をブルース・チェンジと言いますが、アイガットリズムのコード進行でアドリブする事を『リズム・チェンジ』と言います。ビバップ~ハードバップ期に頻繁に演奏されていて、チャーリーパーカーが演奏した曲にはアイガットリズムを元に作られた曲がたくさんあります。

この2曲のコード進行を土台に、様々な曲が作られているので、この2曲の輪郭を押さえておけばジャズを聴く楽しみがいっそう広がります。

コード進行について説明しました。つぎには、先にも触れた「アドリブ」について、コード進行と関連して説明します。

 

アドリブ

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ジャズとは、曲の骨格であるコード進行をもとに、プレイヤーが持てる力を余すことなく発揮して「即興演奏」をします。

その即興部分をアドリブと呼びます。

アドリブにも、ジャズプレイヤーによって様々なスタイルがあります。

テーマであるメロディの雰囲気を色濃く保ちながら、そのメロディを演奏するような方法でアドリブを演奏するプレイヤーがいます。

一方、テーマであるメロディ部分からアドリブに移った瞬間に、全く独自な世界を展開するプレイヤーもいます。

あとのシリーズでおいおい紹介しますが、マイルスデイビスのように、少ない音数でピシッとまとめるアドリブを演奏するタイプがいる一方、コルトレーンのようにアドリブを延々と続けるプレイヤーもいます。

このように、アドリブの中にこそ、ジャズの楽しみの・旨味が詰まっているので、魅力的なアドリブのフレーズを一つでも見つけることができれば、徐々に他のアドリブのフレーズも楽しめるようになり、一層ジャズを味わう楽しみを見つけることができます。

では、本記事で紹介するビルエバンスについて触れていきましょう。

新世代ピアニスト:ビルエバンス

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バドパウエルはジャズにおけるピアノ演奏の役割を一気にスポットライトを浴びるスターの存在に引き上げた天才ピアニストであることを第一弾記事で紹介しました。

ビルエバンスはバドパウエルが築いたピアノ演奏スタイルに新しい風を吹き込んだのです。

ピアニストだけが演奏の主導権を握るのではなく、ベーシストやドラマーもまた音楽に深く参加するということを実践しました。

ミュージシャン同士がお互いの演奏に触発され、今まで以上に独創的で有機的な演奏ができるようにしたのです。

ジャズでは、こうしたミュージッシャン同士の相互作用を「インタープレイ」と呼びます。

 

インタープレイ

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この言葉の意味は今後とも重要な言葉として出てきますので覚えておいてください。

ビルエバンスは、名ベーシストである「スコットラファロ」の演奏するメロディアスで刺激的なラインに触発され、自らも素晴らしい斬新なアイディアを幾重にも折り込んだアイディアを生み出しました。

このようにビルエバンスのピアノトリオスタイルは1960年代以降に登場したピアノトリオに多大な影響を与えました。

ビルエバンスの特徴といえば、誰でもが心洗われるような美しい旋律です

まずはこの美しい旋律を存分に味わってください。

そして曲想全体に馴染んだら、つぎにエバンスのピアノタッチに集中して聴いてみてください。

最初の1音を発する瞬間の絶妙なタッチ、実に繊細なこのタッチを味わってください。

そして、その繊細なエバンスのタッチに合わせるようにベース、ドラムがお互いを触発するインタープレイを味わってください。

そこまでいくと、ビルエバンストリオの魅力に引き込まれます。では、曲を聴いて頂きましょう。

ビルエバンスといえば、代表作「ポートレイトインジャズ」のジャケットのイメージが印象的です。

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知的な風貌、眼鏡をかけた白人の男性が短く揃えた髪を端正に撫で付け、スーツにネクタイをしたポートレイトから漂う端正な雰囲気から、おそらく学者、銀行マンをイメージする人が圧倒的に多いのです。

そうしたイメージと相まって、彼の奏でる繊細で美しいサウンドが人の心を打つのでしょう。

私もビルエバンスが大好きで、なぜか秋になると無性に彼の演奏を聴きたくなります。

きっと、夏の喧騒が終わりを告げ、落ち着きを取り戻した静けさの秋、しかしなぜか物悲しい季節でもある秋の雰囲気がきっとそうさせるのでしょう。

今回は、ビルエバンスの代表4部作である、「Portrait in Jazz」「Explorations」「Waltz for Debby」「Sunday at Village Vanguard」の中から選曲しようと思いましたが、それはまた後日に譲り、今回はエバンスが奏でる哀しみのピアノの最高と評価しますエバンス晩年のアルバム「You must believein Spring」から「B Minor Walts」を紹介します。

このエバンスの中ではひときわ美しさの精緻を極めた演奏だと思います。

まるでクリスタルの美しさと美しさが過ぎるための冷たさが同居し、単に美しいだけではない「美」とはなにか?が問われているような気がします。

音楽的な技法やアプローチを超えて生身の感情に訴えかけてくる深くなんとも味わい深いエバンスのピアノ表現に身を委ねてください。

 

B Minor Walts

いかがでしたでしょうか。

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今回はあと、ビルエバンスから2曲を紹介します。

それは、「Portrait in Jazz」から「Someday My Prince will comeWaltz」と「枯葉」をお届けします。

Someday My Prince will comeWaltz(BillEvans)

1曲めは「いつか王子様が」ディズニーのアニメ「白雪姫の挿入歌」として有名です。

この曲は何人ものジャズプレイヤーに演奏されています。

このアルバムでは若くして天逝してしまった天才ベーシスト「スコット・ラファロ」とのインタープレイが特に有名です。

このラファロはもともと縁の下の力持ち的存在であったベースをソロ楽器としてピアノと対等に演奏したことで有名になりました。

ポートレイト・イン・ジャズ+1
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いかがですか?3分15秒当たりから始まるスコット・ラファロの奏でるベースはすごくありませんか?

これほどベースをピアノのように弾きこなすベーシストは今までいなかったのです!

枯葉(BillEvans)

2曲めはシャンソンで有名な「枯葉」です。

45秒という比較的長めなメロディ部が終わってから、ベーシストやのラファロが先行してリードします。

まるで、ベースをピアノのように扱う若き天才ラファロの音楽性が光ります。

そこにドラムが絶妙に絡み濃密なインタープレイが繰り広げられます。

まずは、先入観を一切捨てて心を無にしてエバンスの音楽に身を委ねてください。

この演奏でもビルエバンスと、特にベーシストのスコット・ラファロとのインタープレイを楽しむことが出来ます。

最後に、「枯葉」が出ましたので、対照的な演奏である「エロールガーナー」の枯葉をお届けします。

枯葉(Erroll Garner)

エロールガーナーは生涯楽譜が全く読めず左利きであったピアニストで、音楽好きの両親の影響もあって独学でピアノ演奏法を習得しました。

かえって楽譜が読めない、左利きだったことが彼の独特な音楽感性と技術を育てたと言われています。

左利きであったことで、演奏では左手が強烈なビートを刻み、右手のメロディが若干遅れてでたために、「ビハインド・ザ・ビート」と呼ばれ彼のトリッキーなサウンドの代名詞になりました。

ビルエバンスのリリシズムといわれるサウンドとはある意味対照的ですが、聴いてどのように感じますか?

私は、正直言って本当にどちらも好きです。

感性が違うものの中で両方好きというのもおかしな話ですが、ジャズの世界ではよくあります。

まずはお聞きください。

いかがでしたか?
1分44秒までメロディが弾かれますが、そのあとの独特な枯葉のイメージは、他のピアニストにはない感性でこの部分を私はこよなく愛します。

そしてメロデに戻ります。そして再び始まる4分25秒からのアドリブも絶品だと思います。

みなさんはどのように感じますでしょうか?そんなことをお酒を飲みながら話したいものです。

まとめ

今回はビルエバンスに焦点を当てて、美しい旋律の曲を聴いて頂きました。

そして、ジャズではとくに重要なコード、アドリブ、そしてインタープレイなどについても説明をいたしました。

最後に対照的な2人のプレイヤービルエバンスとエロールガーナーの「枯葉」を聴いて頂き、聴いた印象の違いを楽しんでいただければ幸いです。

まだ、「Jazz”X”がおすすめするジャズの魅力(1)」をお読みでない方は、こちらをお読み下さい。

親しみやすくメロディの美しい2曲+1曲を紹介していますので、お聴きになると”なかなかジャズも良いね~♫”という感想を持つことが出来るかも!

「Jazz”X”がおすすめするジャズの魅力」シリーズはこちら ↓↓

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最後までお読み頂き、誠に有り難うございました(*^-^*)